
私たちは言葉を話すとき、舌を複雑に動かして発音しています。
総入れ歯を入れると、口蓋や歯ぐきにかぶせる義歯床によって、どうしても口腔内が狭くなってしまいます。その結果、舌が思いどおりに動かずに、発音しにくいという現象が起こりがちです。
とくに「さしすせそ」「たちつてと」の発音がしにくいという人が多いようです。読んでいる方も、ちょっと「さ行」と「た行」を発音してみてください。「さ行」も「た行」も口をあまり大きく開けずに、舌を下の歯の裏側に当てて発音することがおわかりいただけるでしょう。つまり、「さ行」と「た行」は日本語のなかでもとくに微妙な舌の動きを必要とする発音なのです。
舌が自由に動かないために、発音全体が不明瞭になったり、モゴモゴとくぐもった声になって、相手に聞き取りにくくなってしまいます。舌に唾液がからみ、ペチャペチャと音がする場合もあります。また、舌が入れ歯にこすれて炎症を起こして痛くなると、よけいに舌を動かさないで話すようになってしまいます。
気を使って話していても、相手にたびたび聞き返されたりすると、しだいに話すのが億劫になる人もいることでしよう。せっかく入れ歯を作ったのに、かえって無口になってしまってはつまりません。
まずは、自分自身で口を大きく開けて、舌を上手に動かして話す練習をすることも大切です。毎日、新聞の記事を音読したり、好きな文章や美しい詩歌をゆっくり、しっかりと発音するように読んでみるのもよいでしょう。話すときも、できるだけ口をしつかりと開けて、話すように心がけてください。
それでも舌が動かしにくい、話しにくいという場合は、やはり入れ歯のほうに問題があるのかもしれません。口の大きさに対して義歯床が大きすぎたり、厚すぎることが考えられます。(パラトグラム試験)
正確にその人の口の形態に合わせて作る入れ歯は、義歯床をむやみに大きく厚くする必要はありません。ポイントをきちんと押さえて密着性が保たれていれば、「大きくもなく、小さくもなく、高くもなく、低くもなく、きつくもなく、ゆるくもない、何ともない入れ歯」が作れるのです。
もし、必要以上に大きい義歯床の入れ歯で話しにくいという場合は、入れ歯そのものを作り直すことを考えてもいいでしょう。現在使っている入れ歯をむやみに削って小さくしたり、薄くしてしまうと、今度は安定感が悪くなりがちだからです。食べたり、話すときに動いたり、はずれるようになってしまうと、今度は口の中の粘膜を傷つけ、痛みが出てくる可能性もあります。
そこで、現在使っている入れ歯の調整を依頼するときは、入れ歯専門の信頼できる歯科医師を選ぶことが大切です。
■ 原因
- 入れ歯の不安定感
- 咬合高径の誤り
- かみあわせの不調和
- 歯をならべる位置が狭い
- 口蓋部と舌運動の不調和
- 下顎入れ歯の舌側過延長
- 口蓋が厚すぎる
- 前歯歯並び傾斜の誤り
- 精神的なもの